「掘り出し物が出る店」
田中自知郎さんが思文閣にいた頃、北野恒富、池田蕉園、河村清雄、尾竹国観などちょっと変ったものを購入した。その当時は安かったが、現在は見直されていい値になっている。いわゆる掘り出し物だ。又、珍しい物も度々あった。
田中さんは目利きで冷静な人物だと思っていたが、ある時、松屋デパートの8階の「宮川」で鰻を食べていると、店の前を通りかかった田中さんが私を見つけ、ずかずかと入ってきた。
「福富さん、市でえらい買い物をしてしまって困っているんです。何とかならんですかね」とかなり慌てていた。
「どうしました?」
「いや、富岡永洗が出たので追っかけてしまい、競り合いになってつい夢中になって高値で落としてしまったんです」
「えっ、いくらで落としたんですか?」
「恥ずかしくて話になりません」
「そんなに高くては私も手が出ませんよ」
「いや、私の失敗ですから損しても構いません。貴方くらいしか話す人がいないのですよ」
と云われ落札価格の半値で引き取った。今では私の秘蔵品である。
「普段は冷静な田中さんでもこんな失敗をするのか」と可笑しかったことを覚えている。人間的には愛すべき人だ。又、真贋問題などでは人の話をよく聞き、謙虚なところもある。
息子さんは東大出の秀才で、自主映画の制作など多彩な趣味の持ち主。コンピュータ関連の会社からの華麗なる転身。
人情味あふれる父親と切れ者の息子さんとのコンビはいかに。
このコンビで株式会社秋華洞・秋華洞がどんな物を集めるかと楽しみだ。どんな掘り出し物が出るかと期待している。
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