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初めての絵画購入のきっかけは、ドラマチックな出会い。 |
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千秋 初めて絵を購入されたのはいつだったのですか?
堀 35歳の時に絵のコレクションをしはじめましたが、最初に買ったのは33歳の時だったかな。サンフランシスコである商談があって、その時なかなか日本人としてその商談に太刀打ちできずに疲れきってしまったのです。その時に、一人でワイン一杯飲みながら、サンフランシスコの波止場にふらふら行ったのです。そこにポールアンドポールという、フランス系の一人の絵描きが絵を描いていました。彼に「自分は絵が好きだから絵を描いているのを後ろでみさせてくれ」と頼んでずっと絵を描くのを見ていたのです。そうしたらその作家が「お前絵が好きなんだな。そこに立っているストリートガールを30ドルで買えるけれども、俺の絵は同じ値段で何年も楽しむ事ができるぞ。お前は一瞬の快楽と精神の豊かさとどっちにお金を払う?」(笑)と言ってアトリエに案内してくれました。そして、このアトリエの中で一番良い作品を買えという話になって、30ドルの小さな絵を買いました。その絵が一番始めに買った絵ですね。
千秋 そうでしたか、大変面白いエピソードですね。
堀 ゴールデンゲートブリッヂにヨットが走っている癒し系の絵でした。
それからそのアメリカでの商談がうまく行けば良かったのですが、私はそこでむこうのあるオーナーの部下と喧嘩してしまって、傷心というか傷ついた心で日本に帰ってきたのです。それが原因で少し暗くなっていたのですね。そのとき初めて八重洲のブリジストン美術館でピカソの「サルタンバンコ」という道化師の作品を見まして、今までわからなかったピカソの凄さ、そして幼少の時好きだった絵をまた書きたい気持ちになったんです。でもピカソみたいな画家になるには今からでは遅すぎると思いまして、画家としてではなく眼の方を鍛えようと思って、それからコレクターをはじめました。
千秋 なるほど。そうだったんですか。
堀 それまではピカソがわからなくて、皆ピカソがいいというのです。例えば、学校の先生でも、私は繊細な安井惣太郎の風景画のような水彩画を描いていたのですが、皆は私の絵を褒めてくれても、新しく来た先生は、大きな太い幹を描くピカソ風の絵を描く生徒の作品を褒めるんです。ピカソがいかに偉大か話して褒めるのを聞いて、大変悔しかったのです。本当に悔しくて泣きながら布団の中で筆をボキッっと折りました。絵描きになりたかったんですよ。
千秋 折るぐらいですから、ものすごい絵に対して思い入れがあったんですね。
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サラリーマン時代の美術館めぐり。絵画コレクターとの二つの顔。 |
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堀 それ以来のサルタンバンコとの出会いだったので、だからそれから脱兎のごとく絵画のコレクションに入っていきました。お酒をやめ、マージャンをやめ、ゴルフをやめ、パチンコもやめ、色々なことをやめて絵画収集に年間200万から300万円をつぎ込んで25年間続けました。
千秋 一気にすべてやめてしまったのですか?
堀 少しずつ少しずつやめていきました。ただ組織の人間でしたから、会社に必要なものはきっちりと押さえて出席をしました。そして仕事の合間に全国の美術館をまわりました。朝に仕事を集中的にやって、昼の一時間に美術館に入って、夕方仕事を終えたらまたもう一つ美術館を見るというようにしました。時には仕事がなければ、その美術館の近くに仕事を作ってその美術館に行ったりもしました。会社にいる時にこんな話はできませんが、今はもう時効ですね。ただ成績はずっと上がっていたので、大体許されていましたね。
千秋 いいですね。それは。
堀 でも誰も会社の人間は僕が絵を集めていることをしらなかったですね。サラリーマンで絵の話をしても、誰も聞いてくれないのですよ。どんな組織でも大体一万人に一人絵を好きな人がいます。ですので良いコレクターというのは大体10万人に一人と言われています。だから孤独でした。
千秋 そうですね。同好の士を探すのが大変ですよね。
堀 ですので、山本さん(*カタログ7インタビュー掲載)みたいな人は偉いなと思っています。直接ビジネスマンに美術の普及活動をやられていて、そんな不可能な事はやめたほうがいいのになと思いますが、山本さんはその活動を続けておられて立派なもんだなと思っています。世の中一人の人で、こつこつ継続して世の中を変えていけることってあるんだなと思いました。
ですので、私は山本勝彦さんを尊敬していますよ。ですので、山本さんが下さる情報は「わ」の会にも流しますし、それがゆえに今日の秋華洞さんのインタビューもあるですよ。(笑)
千秋 大体同世代で話をあわせるとしたら、ゴルフの話か、野球の話か、ですよね。
堀 そうですね。社内でもそうでした。それか上役の悪口がほとんどでした。絵の方に没頭している者としては、なんとも聞きがたかったのです。
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